2007年02月25日

古酒スパイス

 まずは、実際に作られている古酒カレーについて。
 現在、通常メニューとして出されている古酒カレーはわずか一種類のみだ。近い将来のメニューとしていくつか控えているが、現在はただこれ一種類を全力をあげて作っている。
 古酒カレーの特徴は、まず、そのスパイスにある。通常のカレーは、調合されたものを使用しているが、古酒カレーはクミン、ターメリック、クローブなど二十種類あまりの原料を一品々々調達して、独自に調合している。さらに、沖縄産のウコン、ゴーヤー、月桃、ニガナ(根)、ウイチョーなど、他では決して使われることのない特殊な原料を用いている。
 しかし、なんといっても一番大きな特徴は、古酒カレーというその名の通り、スパイスを古酒で練り込んで作っているという点である。
 なぜスパイスを古酒で練り込むのか?



 それは、アルコールには、スパイスを熟成させる作用があるからだ。梅酒をイメージしていただきたい。一定期間、梅を酒につけ込むことで、梅も酒も熟成し、味が驚くほどまろやかでおいしいものになる。スパイスも古酒で練り込まれることによって熟成し、カドが取れ、えぐみが抜け、それが本来持っていた味わいが引き出された上で、マイルドに変容する。
 オーケストラにたとえれば、スパイスを練り込む古酒は、オーケストラをまとめあげる指揮者のようなものだ。楽器(スパイス)がそれぞれ好き勝手に演奏していれば、全体としての演奏はおかしなものになってしまう。演奏というものは(やったことはないが)、各楽器が反発しあうことなくまざりあい、融合し、熟成することによって成り立っている。それと同じように、古酒スパイスも、指揮者である古酒によって、各スパイスが混ざり合い、熟成し、一つにとけあうのだ。
 この『指揮者』の存在が、古酒カレーと他のカレーの決定的な違いである。
 生のままの梅と、アルコールに漬け込んだ後の梅を想像していただきたい。
 味の違いは明白である。

2007年02月15日

沖縄式への道 その一


 沖縄式珈琲というものを提案し、それをテーマとする珈琲&カレー専門店を立ち上げて13年になる。そのあいだ、周囲から白眼視されるほど声高に「沖縄式」を言い続けてきたが、定着していないばかりか、その存在さえほとんど知られていないのが現実である。しかし、それでもなんとか潰れもせず言い続けられているのは、一つの奇跡かもしれない。
 奇跡といえば、今日、雨も降っていないのに小さな虹が赤瓦の屋根の上にかかっているのを見た。携帯で写真に撮ろうと思って鞄を探っていたら、あっというまに消えてしまった。誰かにその話をしようと思ったが、日頃の言動があまり良い評価を受けていないので、やめた。これは本当の話である。しかし、誰も信じなくてよい。

 沖縄式珈琲の話にもどる。
 私がこれを言うようになった理由は、もともと「沖縄式」というものに対してこだわりがあったからである。「沖縄式」というのは、沖縄にかつて存在した沖縄独自のスタイルというか、やり方というか、とにかく、目に見えない文化みたいなものである。なぜそんなものにこだわるかというと、この「沖縄式」によって、これまでずいぶん助けられてきたからである。いや、「沖縄式」がなかったら、私はまちがいなくいまここにこうやって存在していなかっただろう。
 この極貧のちっぽけな島で生まれた人々の生活の知恵・スタイルである「沖縄式」。これに私は西欧式、東洋式とも異なる、これまでにない価値観を見る。もしかしたら、「沖縄式」こそが、来るべき崩壊の時代のために、神さまが南の小さな島にこっそり植えておいた最後の救いの花なのではないか、とさえ思える。だからこのちっぽけな花のことをみんなに知ってもらいたいと思う。だからどこまでも「沖縄式」なのである。

 何が言いたいのかわからなくなってきた。
 そう。沖縄式珈琲である。
 それがいったいどんなものなのか、どこが沖縄式なのか、次回、くわしく説明したい。

序章  古酒カレー狂詩曲


 カレーの世界はある意味、音楽の世界に似ている。
 カレーはスパイスの選択、組み合わせ、さじかげんで味が大きく変化する。
 それは演奏における楽器のそれと似ている。いや、カレーを作るということは、作曲家が多くの楽器を組み合わせて一つの壮大な交響曲、音楽を作るというのとまったく同じことなのだ。
 クラシックは門外漢なので誤解&失礼があるかもしれないが、スパイスをオーケストラにたとえさせていただければ、中心となるバイオリンはクミン。これは、カレーのあの鼻と舌にぴりっとくる基本な味わいのもとになる。
 たった一台で主旋律を奏でるピアノはクローブ。ピアノがたった一台で演奏の価値を決定づけてしまうように、クローブもごくわずかな量でカレー全体の味を支配している。
 全体の雰囲気を底から支えるコントラバスはターメリック。カレーのおいしそうな色づけ、大まかな味わいのもととなる。
 演奏を繊細なものにするフルートはカルダモン。チェロはコリアンダー。ファゴットはオールスパイス。ビオラはシナモン。ぴりっとした辛みのチリはピッコロといったところだろうか。
 それぞれの楽器の数や弾く強さによって、演奏の雰囲気が異なるように、カレーもスパイスの分量や強さによって、味がずいぶん変わってくる。
 まさにオーケストラそのものではないか。
 実際、私はカレーをたべるとき、いつも音楽が聞こえてくるような気がする。
 スプーンから舌先にルーが落ち込む瞬間にきこえてくる、あの繊細で神秘的なイントロ。続いて、波のようにうねりながら押し寄せてくる第一楽章……。
 食べ終わったときの満足感は、まさにフル・オーケストラの名演を聴き終わったときの余韻そのものなのだ。

 さて、これから、音楽としてのカレーの世界へ、しかも既存の音楽とはかなり趣の異なるクース(古酒)カレーの世界へ、あなたを誘うことにいたしよう。この風変わりな音楽は自由奔放な狂詩曲、沖縄のカチャーシーに似ているが、その本質は意外なくらい緻密な計算と、すべてを変容させる狂おしいまでの熱情だ。この音楽のことを深く知れば知るほど、あなたはカレーがもっと好きになり、そしてついにはカレーの世界の住人となって、カチャーシーに踊り狂う人々のように二度ともとの世界に戻ることはないだろう。