カレーの世界はある意味、音楽の世界に似ている。
カレーはスパイスの選択、組み合わせ、さじかげんで味が大きく変化する。
それは演奏における楽器のそれと似ている。いや、カレーを作るということは、作曲家が多くの楽器を組み合わせて一つの壮大な交響曲、音楽を作るというのとまったく同じことなのだ。
クラシックは門外漢なので誤解&失礼があるかもしれないが、スパイスをオーケストラにたとえさせていただければ、中心となるバイオリンはクミン。これは、カレーのあの鼻と舌にぴりっとくる基本な味わいのもとになる。
たった一台で主旋律を奏でるピアノはクローブ。ピアノがたった一台で演奏の価値を決定づけてしまうように、クローブもごくわずかな量でカレー全体の味を支配している。
全体の雰囲気を底から支えるコントラバスはターメリック。カレーのおいしそうな色づけ、大まかな味わいのもととなる。
演奏を繊細なものにするフルートはカルダモン。チェロはコリアンダー。ファゴットはオールスパイス。ビオラはシナモン。ぴりっとした辛みのチリはピッコロといったところだろうか。
それぞれの楽器の数や弾く強さによって、演奏の雰囲気が異なるように、カレーもスパイスの分量や強さによって、味がずいぶん変わってくる。
まさにオーケストラそのものではないか。
実際、私はカレーをたべるとき、いつも音楽が聞こえてくるような気がする。
スプーンから舌先にルーが落ち込む瞬間にきこえてくる、あの繊細で神秘的なイントロ。続いて、波のようにうねりながら押し寄せてくる第一楽章……。
食べ終わったときの満足感は、まさにフル・オーケストラの名演を聴き終わったときの余韻そのものなのだ。
さて、これから、音楽としてのカレーの世界へ、しかも既存の音楽とはかなり趣の異なるクース(古酒)カレーの世界へ、あなたを誘うことにいたしよう。この風変わりな音楽は自由奔放な狂詩曲、沖縄のカチャーシーに似ているが、その本質は意外なくらい緻密な計算と、すべてを変容させる狂おしいまでの熱情だ。この音楽のことを深く知れば知るほど、あなたはカレーがもっと好きになり、そしてついにはカレーの世界の住人となって、カチャーシーに踊り狂う人々のように二度ともとの世界に戻ることはないだろう。